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雲で隠れていた月が顔を出す。
月光に照らされ、小さな影の正体が露わとなった。
見た目は中学生くらいの少女の姿。
だが、その少女の顔を見ても彼女の動きに澱みはない。
女は顔面を目掛けて放たれた拳をいとも簡単に避けると、通り過ぎた少女に背後から両手を組んで、叩き付ける様に振るう。
すると、少女が一瞬で振り向き、頭上に腕を交差し受け止めた。
肉と肉がぶつかり合う大きな音が周囲に響く。
その威力が如何ほどのものかを象徴するかのように、少女の足元のコンクリートはヒビが入り、砕けていた。
だが、少女は躊躇する事なくその手を掴み取ると投げ飛ばした。
その小さな体のどこにそんな力があるのかと疑いたくなるが、現実に目の前にあるのだから信じざるを得ない。
女は空中で半回転し、体勢を立て直して着地すると、すぐさま少女へ向けて飛び掛かった。
正面から突っ込んでくる女を、少女は迎え撃つために自らも武器にして突進していく。
大きさの違う影がぶつかる瞬間――
少女は拳を避けるとそのまま女の腕に飛びついていた。
「やるわね」
女は呟きながら、腕を抱えるようにしてぶら下がる少女をもう片方の手で叩き落とそうとする。
しかし、少女は彼女の腕を抱え込んだまま下方に向けて体を落とした。
その急な力の移動でバランスを崩した女は手をつくと、
「甘いわよ」
片手だけを使い、逆立ちの要領で体を支えると、その格好のまま腕にしがみ付いていた少女に膝を繰り出す。
少女は口に笑みを宿すと、一瞬で弾けるように腕を放して地面を蹴った。
「そう簡単にはいきませんよー」
女は避けられる事を分かっていたのか、表情を一切変えずに体勢を立て直そうと足を地面につける。
だが、あの一瞬の間に五メートルは離れていた少女はそうはさせないとばかりに、どこからか取りだしたナイフを彼女に目掛けて放った。
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