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微かな光に反射した銀光が煌めき、彼女に迫る。
それでも女は自分の急所に迫るそのナイフを、なんでもない事のように簡単に指で挟んで止めた。
それによって少女の笑みは更に濃くなる。
女がナイフを地面に捨てると金属が跳ねる音が周囲に響き、それを合図にしたかのように少女が再び地面を大きく蹴った。
この間、およそ十数秒程の出来事。
地を這うようにして迫る少女を視界に認めると、女も迎え撃つ為に構えなおした。
そして、二人が交錯する瞬間――
少女の攻撃を跳躍して避け、そのまま背後に回って蹴りを叩き込む。
攻撃を仕掛けていた小さな影は、避けられた反動で隙だらけ。
これは避けようがない攻撃だった。
それほどに致命的な隙。
しかし、間違いなく少女の首筋に収まるはずだった彼女の足は、なぜか空を切っていたのだ。
そう。
少女はある『力』を使い避けていたのだ……。
そのあまりにも異常な光景は、誰が見ても裸足で逃げ出すほどに逸脱している。
なぜなら、地面から少女の顔だけが覗いていたのだ。
「……さすがね」
そんな光景を見ても表情を変えることなく彼女はそう呟くと、ゆっくりと体から力を抜いた。
首だけで振り返りニコリと笑うと、少女は地面から飛び出す。
体の調子を確かめるかのように腕を振り、少女は彼女の顔を見た。
「久しぶりですねー。元気ですかー?」
少女は、先程までの行動が嘘のように友好的に話しかけると近づいていった。
「随分な挨拶だったわね。ああいうのはやめて欲しいわ」
女はそう言うと、服の乱れを直しながら歩き始めていた。
「えへへー」
笑いながら、少女も後に続く。
屋上を出る為のドアはすでに目の前。
辿り着く頃には、少女の表情からは笑みが消えていた。
「……いよいよですねー」
少女が俯きながら呟く。
「……えぇ、そうね」
その様子を肌で感じながら女は答えていた。
そして……。
ゆっくりと……。
屋上のドアが閉じた……。
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