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桜も散り、すでに梅雨の時期に入っている六月の事だった。
学校を終えた水鏡翔(みかがみしょう)は高校に入ってから仲の良くなった悪友の佐藤大地(さとうだいち)と別れてから、駅前の繁華街を歩いていた。
平凡な日常。
それを多くの人間は退屈と呼び、それでも抜け出せない日々を生き続ける。
別に悪いことではない。
ただ、翔はそんな暮らしになんとなく不満を持っていた。
つまらない日常を壊してくれる何か、そんなものを心の中で求めていたのかもしれない。
そして――それが現実となった時に物語は動きだす。
「あーあ、一人じゃ何にもやる事ないな……」
特に目新しい物も見当たらない繁華街の中で一人零した翔は、駅前のベンチに腰かけた。
頬杖をついて何気なく辺りの様子を見てみれば、仕事帰りのサラリーマン、楽しそうに腕を組むカップル、社会復帰を諦めきったような薄汚れた男などが歩いていた。
「帰ろうかな」
深く溜息をつき、呟く。
家に帰ればいつも通りの生活が待っている。
もしかしたら、という期待を込めて駅前に来てはいるものの、そんな事くらいで変わる日常などあるはずもない。
そう――それは翔もそう思っていた。
立ち上がろうとした翔が、横に置いてある学校の鞄を取ろうと手を伸ばした時の事だった。
「なっ……」
急な頭痛が襲った。
鞄を取ろうとする不自然な格好のまま、脂汗を浮かべ悶える。
『……ちゃん』
本格的な激痛に幻聴まで聞こえる気がしていた。
駅前という場所柄もあり、その様子に気が付いている人間も多数いるはずだが、誰も近づこうとはしない。
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