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◇ ◆ ◇
「今考えれば、あれもそうだったって事か……」
思えばあれも彼女だったのか、と翔は今更ながらに考えていた。
それに気がつけたのは、自分を射抜く視線の蒼に見覚えがあったからだった。
なぜもっと早くに気がつかなかったのかと、自分の鈍感さに軽い嫌悪さえ覚えてしまう。
彼女は翔と目が合うと問いかけた。
「大丈夫かしら?」
翔は頷きながら、隣で自分を守るようにして立つ彼女を見ていた。
現在置かれている状況は、今までの日常とはかけ離れている。
いや、何が起きているかも理解できはしない。
「なぁ、どういう状況なんだよこれ……」
翔は自分が路地裏でこのように囲まれている理由を知っているであろう彼女に向けて訊く。
彼女は一瞥をくれると、
「説明は後よ。さっきも言ったでしょう」
「それはそうだけど……」
納得はしていなかったが、反論の余地も見せない彼女に向かってこれ以上何を言っても無駄だと感じ、翔は身を呈して男たちの攻撃を捌く彼女の邪魔をしないようにする。
路地裏の濁った空気が鼻につき、妙な息苦しさを感じていた。
男たちは一様に同じ格好をしていて、只のチンピラには見えない。
「うわっ」
不意に、翔が驚きの声を上げた。
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