侵食

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通話ボタンを押す。 「徹くん、やっほー」 明るい声。オレがいつも癒される声。どれだけ辛い時もこの声でオレは救われる。 だから余計に胸が痛んだ。 何かがこみ上げてくるのを堪え、精一杯明るく声を出した。 「やぁ真美。」 これで精一杯だった。 すぐに訪れた沈黙。 真美はその違和感をすかさず察知したらしい。 「…どうしたの?…何か嫌な事でもあったの?」 「…いや、なんでもないよ。ちょっと仕事で疲れているだけだから」 「大丈夫?」 「うん、本当に大丈夫だから」 「ならいいんだけど…」 真美がオレを心配してくれている。それなのにオレは… 「ごめん真美、なんかオレ変だよね。…そうだ、今度の日曜にデートしない?…どう?」 わざとらしい気もしたが、それくらいしか言えなかった。 「ホント!? やった!」 真美がいつもと変わらない声で喜ぶ。 でもこの時のオレは、オレの疑念を見透かされているような気がしてならなかった―。
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