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「………うぐ…ぅぅう……っ……」
次第に嗚咽に変わってゆく声。
生理的に出る涙か、後悔の涙か。
それさえも自分でわからないことに
急速に心が冷えていくのを感じた。
いつの間にか瞑られていた瞼を、涙を拭いながらゆっくりと開く。
―――答えは、胃液だった。
先程、何が出るのか?と考えて、結局曖昧な答えしか出せなかった疑問。
目の前に広がるその疑問の答えに、
涙はぴたりと止まった。
少女は青白い顔のまま、口元を拭うとそのまま大通りへと歩き出す。
着物に返り血が付かないよう配慮しているため、着替えなくても目立つことはない。
「……だよね、何も入ってなくても
胃液だけは常にある……」
文字通り自分で吐き出した答えを、ぽつりと呟くと
少し歩き、また細い路地へと入った。
――次の依頼は昨日の残り。
数日前。自分に害なす三人組を消してくれと、必死に頼み込んできた中年の男を思い出す。
「三人、」
依頼の覚え書きと簡単な地図が記してある紙に目を通しながら、ぽつりと呟く。
――自分は本当に捨て駒だと、
そう実感する依頼。
仮にも自分は女であるのに。
上司のおっさんは、なんと三人を相手にしろという、この依頼を回してきた。
確かにこれは大きな仕事、という訳では無い。
しがない一般庶民の私利私欲の下に成る依頼である。
けれど。でも――――……
―――――そこまで考えて、止めた。
「女なんてとうに捨てたのにね」
少女は自嘲気味に薄く笑うと、
紙を胸元にしまい込み路地の角を曲がった。
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