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――――翌朝――……
安宿で一晩を過ごした少女は
男物のボロの着流しを纏い、
笠を深くかぶり外に出た。
――彼女は何時も男装である。
男でいる方がなにかと便利なのだ。
仕事着。
最初はそう割りきって着分けていたのだが、暫くの生活の内に常に男装でいる方が便利であると実感した。
その時から彼女の所有している着物の一切が男物である。
と言っても、今纏っているのと、ボロの上着と袴とを合わせて二着しか持っていないのだが。
「……はあ……」
少女は腰にさしている朱い紐の刀の柄を撫でながら、目的の場所へと歩き出した。
「うぇぇ……気持ち悪」
のったりと歩きながら腹をさする。
昨晩吐いてから何も食していないが為の、空腹感による吐き気である。
金が一銭も無いため、食事にありつけない。
それというのも、彼女は仕事柄、貧乏なわけではない。
しかし、金が入っても大半を母親のもとに送ってしまうため、彼女のもとには雀の涙ほどの金しか残らないのだ。
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