162人が本棚に入れています
本棚に追加
賑わい始めた京の町。
ある店から流れ出した、美味しそうな香りが鼻先を掠めた。
少女は切ない腹の音に顔を歪ませつつ、振り切るように早足でその店の前を通り過ぎて行った。
「…………」
――――そういえば今。
いつものように吐いたら何か出るのか?
ふと、そんな疑問が過ぎり、腹をさすりつつ考えてみた。
「……食べてないから……
何も出ないのかなあ……」
結局そんな答えにたどり着き、
むぅ、っとひとつ顔をしかめると
気を取り直して歩く速度をまた速くした。
――――ある長屋の前。
そこで、少女はぴたりと歩みを止め、その一部屋の戸を開けた。
中でごろりと横になっていた男は、
突然の訪問者に驚き起き上がる。
「だ、誰だ?お前さんは
なんか俺に用か?」
「……貴方は…中谷、勝之助?」
何者であるかは、お決まりのように無視して、逆に少女が男に問う。
「……お、女か? その声……」
笠で顔を隠し、男物の着流しを纏っているが、やはりその男装は形ばかりのもので。
声までは男にはなりきれない。
「……某は男です。
それより質問に答えて頂きたい。」
声を少し低くし、丁寧な言葉遣いは崩さずに少しの苛立ちを含ませる。それを感じ取った男は慌てて答えた。
「あ、ああ。 そうだが……
なんでお前は俺の名前を……」
「仕事だから」
「……仕事?」
「……仕事
貴方が今から死ぬ為の仕事」
少女の口から飛び出した、
不吉な言葉を最後に、
男は小さな叫びをあげて事切れた。
ズシャリと肉が斬れる音。
少女が刀で男を斬った。
最初のコメントを投稿しよう!