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一人控室に残る沙希。
スポーツドリンクのCMオーディションに参加した女性は十五人はいただろうか。
しかし、沙希以外の人は三十分以上前に呼ばれていった。
前の人がやけに長い気がする。
彼女は審査する人たちに気に入られているのだろうか。
それならば、沙希の合格は難しいと思う。
でも、最後の一人はスポーツのイメージとは程遠い、おっとりした伊藤つかさという女性だった。
沙希もよくオーディションで一緒になるが、元気を前面に押し出さなければならないような商品のイメージに合っているとは言い難い。
どちらかといえば、お茶系の飲料水なら合っているかもしれないが。
沙希は番号札を握りしめる。
これまで両手では足りないぐらいのオーディションに参加しているが、やはり待ち時間というのは緊張する。
慣れもあるのだろうが、沙希は何回参加しても慣れることができなかった。
一度でもオーディションで合格すれば自信になるのだろうけど、モデル事務所に所属していない身分ではオーディションでも飛び抜けた実力が必要になる。
沙希もモデル事務所に所属しようと思っているのだが、登録料が貯まらず未だに参加できずにいた。
モデルと言えば原宿あたりでぶらぶらしていればスカウトされてモデルデビューするというイメージもあるのだろうが、そんなのは稀で、大抵はモデル事務所に所属して、地味なレッスンを受けながらモデルとしての実力をつけて、細かい仕事をこなしてデビューしていくのである。
沙希はその手前だが、遊ぶ暇もないほどバイトをつめて入れて、登録料を稼ぐとともに、個人レッスンを受けたりしてモデルとして必要なスキルを磨いていた。
握りしめた番号札がうっすらと汗ばむ。
それにしても遅い。
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