(一)友達の痛み

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「あ、それはもう要らないから。  記念に持って帰ったら?」 「からかうのもいい加減にしとけ」  机を運んでいたスタッフが礼儀を知らない若いスタッフの頭をはたいた。 「へーい。  んじゃね、石畑さん。  世の中、かわいい子は沢山いるんだよ。  勉強になったねー」  最後まで沙希の名前をわざと間違えながら、さっていく。  沙希は差し出したままの番号札を見つめる。  この悔しさを忘れないために強く掌に握りこんだ。  オーディションに遅れた理由は完全に沙希の判断ミスだった。  時間に余裕を持って駅についていた沙希は、少しお店を見ていこうとフラフラした。  すると、ボディガードを思わせるような黒いスーツの大男が前に立ちはだかったのだ。 「何?」  沙希は動じずに男を睨みつけた。  男はサングラスをしていたし、体も大きかったが、どこか沙希に対して腰が引けているようだった。 「あの、私ですね」  体が大きくて威圧感があるわりに優しい声だった。
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