(一)友達の痛み

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 沙希は話の途中だったが、詐欺の匂いがするこの話を受けるわけにはいかなかった。 「あ、あ、あ。  そういうと思っていたんで、今回はスナップ写真を撮るのと、電話番号だけ聞かせてください。  これ出来ないと事務所へ帰れないんですよ」  なんか、サングラスの向こうから涙まで透けて見えるような言い方に、沙希は面喰ってしまった。  これだけの大きな体をしている男の人が怖がるシジマという社長はどれだけ怖いんだろうか。  もしかしたら黄色い会社みたいに見た目がすっかりその道の人と思えるような姿形をしているのだろうか。  そう思うとなんだか、かわいそうに思えてくるから不思議だ。 「じゃあ、一枚だけですよ」  そういうと弱気なターミネーターは「うんうん」と大きく頷いた。  しかし、写真の撮影というのは案外難しく、沙希の気に入った一枚が撮れるまで何回か、いや十回以上取りなおしたため、オーディションの開始時間に遅れてしまったのだ。  自分で撮り直しを要求したので、まさかスカウトに怒りを向けるわけにはいかず、沙希はスタッフの無礼な態度を甘んじて受けるしかなかったのだ。  沙希は、オーディションの後にレッスンを入れていたことを思い出す。  いつまでも過ぎ去った失敗を悔やんでいても仕方がない。  あのスタッフの言葉や態度は褒められたものじゃないけど、沙希の方に非があるのは確かで、改善すべきは沙希の方なのだ。 「あー、むかつく!」  せめてモデル事務所に所属していれば、少しはスタッフの態度も違っただろうにと思うと沙希は登録料も支払えないことにむかつく。 「あー、どうにかなんないものかなー」  ふと、横を見るとショーウィンドウに沙希が今持っているバッグと同じものが飾ってあった。
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