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そこには十万円以上の値札が付けられている。
ショーウィンドウの横には「ブランドバッグ高価買取」という煽り文句が貼ってあった。
このバッグは沙希が最近買ってもらったばかりのものだった。
付き合っている彼氏がいるわけではない。
沙希に声をかけてくる人のうち、バイトの先輩の本村が一度だけデートした時に買ってくれたものだった。
正直、それで心が動くことはないのだが、人の好意は受け取っておくべき、という本村の主張によりもらったものだった。
値段はなんとなく知っていたし、こういうブランドもののバッグが売れることも知っていた。
これからオーディションに行くときのバッグに少し困ることになるが、これを売って今月のバイト料が入れば、モデル事務所の登録料に手が届くはずだ。
登録さえできれば、今日のように変な態度を取られることもない。
あのクソスタッフの顔を思い出すと、沙希は収まっていた怒りに再び火がついた。
「何もあんな言い方することないじゃん! 絶対に見返してやる!」
沙希は意を決するとお店の中に入って行った。
幸いにもカバンの中には重いものは入っていなかったから、お店で紙袋をもらうと、とりあえずその中に荷物を放り込んだ。
カバンは思った以上に高い値段で売ることができた。
今月のレッスン代の支払いをバイト料が入るまで待ってもらおうと思っていただけに、うれしい誤算だった。
バッグをくれた本村には悪いとは思うが、黙っていればわからないだろう。
仮にばれたとしてもブランドもののバッグ故に同じ形のものが沢山ある。
現にショーウィンドウには沙希が持っているカバンと同じものがあったし、白を切りとおすことは難しくないかもしれない。
沙希はそう考えると気分が少し楽になった。
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