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「どうしたのお父さま? またお母様のことを考えてるの?」
首にしがみついていたイーリンが体を離し、気遣うような目で覗き込んでいた。
そんな娘にアーシュは笑みを返した。
「うん、お母さまはね、イーリンが生まれたその日に、『明日からこの子に剣を教えなきゃ』って言ったんだよ」
「剣を? 赤ちゃんなのに?」
「そう、もちろん止めたよ」
「じゃ、明日から剣の稽古をするね。お父さま教えてくれる?」
「え、それは……そうだね、イーリンがそうしたいなら」
少し戸惑ってから、アーシュは頷いた。
彼には妻ロゼルナとの最後の約束がある。
『イーリンはきっと特別な人生を歩むことになる。だからこの子にどんな人生が待ち受けていても、受け入れて。たとえそれが、父親のあなたには辛い選択であっても』
それがロゼルナの遺言。
この先イーリンの人生になにが待ち受けているのか。
そして、いつかヘレネのようにロゼルナ以外の女性を愛する日が自分にもくるのか。
まだわからない、けれど。
「愛しているよ、イーリン。だから、お母さんとの約束は必ず守るよ」
アーシュはそう言って、もう一度娘を抱きしめた
END
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