9月マモル

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去年の夏は予備校と家とアルバイト先の三ヶ所を移動するだけだった  すべからく受験生に要求されることはコンセントレーションである。英単語を憶えるにも、予備校で講義を受けるにも、模試を受けるにも、本番の試験でも。そして、ストイックであることを自分自身で実感しなければならなかったし、周りの人間に自分がストイックであることをポーズとして示さなければならなかった。  今年の夏はエピキュリアンになってもよかった。  大学生となった今年の夏は何かドラマチックな事が起こることを期待していたが、何も起こらなかった。起こっていたのかもしれないが、ドラマチックなこととして受け入れられなかったのか? 例えば、家庭教師のアルバイト先の奥さんが俺を誘っているように感じられることとか、アルバイト先クレープ屋の女子大生から手紙をもらったとか、そのクレープ屋に毎日の様に同じ時間に顔を出す有閑マダムっぽい人がいるとか。  その人達との関係に飛び込んでみる気にならなかったのはハナが好きだからからだ。  ハナとの関係に何か新展開がなかったから、今年の夏が、俺の中でドラマチックではないのだ。  ハナはどんな夏を過ごしたのだろう。  あまりしつこいのは俺の主義でなないが、暑中見舞いくらい出しておけばよかったかと後悔するが、自分の悪筆をハナにさらすのもなんとも恥ずかしい。  電話をしたが、ハナは高原のペンションにアルバイトに行ってしまっていた。トモヨも一緒だったみたいだ。どんなことがあったのか、トモヨから聞くこともできるだろう。  もうすぐ学校が始まる。早くハナの顔が見たい。
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