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「いいか、駆? お前は今、何も見ていない。見ていないな。そうだろう? そうだと言え」
「ちょ、おまッ。現役ボクシング部が拳を振りかぶりながら、そういうこと言うんじゃねぇよ。完全に脅迫じゃねぇかよ」
「いいから、今すぐ何も見ていないと言え。さもなければ、お前の脳に強い衝撃を与えて、強制的に記憶を飛ばす」
「ボク何モ見テナイヨ」
「よろしい」
というわけで、半ば強制的に佐野のアレは無かったことになった。
恥ずかしさと後悔からか、佐野の顔は未だに真っ赤。
いつからお前はそんなキャラに目覚めたんだい。
そして奴は、その後、それを隠すかのように、一目散に兎上家から出て行った。
逃げ足速ッ。
「ったく。あと少しで、腐女子とガチホモが発狂して喜ぶ展開になったのによぉ。残念だ」
「勘弁してください、黒お……吉岡さん。俺とアイツの友情が、間違った方向に行くところでしたよ、完全に」
「それはそれで、盛り上がる」
「萎えます」
「じゃあ、次、井沢。お前だ、お前。行くぞ」
「展開速ッ」
次に悪魔こと黒岡さんが指差したのは、我等がヒロイン、井沢義弘様だった。
いやあああぁぁ!!
らめぇぇぇぇぇぇ!!
止めてぇぇぇぇぇ!!
井沢さんのキャラがぶち壊されるところなんてみたくないのぉぉぉぉ!!
「……でも、まぁ、アレだな」
「なんだ、吉岡?」
突如首を傾げた黒岡さんに、井沢さんが質問を投げかける。
「……お前、登場頻度が著しく低い空気キャラだし、正直あんまり言うこともないわ」
「…………」
ビキッ。
空気に亀裂が入ったかのような音が聞こえた。
「てか、さ。今更だけど、そのキャラなんなの? 作ってるだろ? 狙ってるだろ? 完全に無理して作ってるクールなキャラだろ? なんかさ、見てて、超痛いんだけど」
「……………」
「正直、そのキャラって登場させ辛いんだと思うんだよな。なんか、『俺はかっこいいぞ~』的な可哀想な感じを常に見せなくちゃいけないし? 笑っ。とりあえず、ナルシスト乙。一人称を、我輩とかしてみれば?」
「…………」
「つーか、兎上駆のこと気遣ってる時点で、お前もBLな流れかもな。うわっ、ネタ被り。流石空気キャラは空気を読むことができなくて困る。悔しかったらもっと登場してみろや。生息地ガーデンカフェオンリーの野生のイケメン(笑)」
プッチン。
何かが切れた音がした。
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