パンドラの箱再び

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「よ、吉岡さん……。その……い、一旦話題を変えない?」 「いや、オレ、事実を述べてるだけだし。読者の声を代弁してるだけだし。お前も、自覚無いわけじゃないだろ? 本当は分かってんだろ?」 「……そ、それ、は……」 「なんつーかな。アレだ。属性が無いんだよな。世の中、ツンデレやら妹やら眼鏡やらツインテーるやら、様々な属性に溢れてるのに、それらが一つも無いってどういうことだよ? どんだけ希薄なキャラ設定だよ」 「…………」 いかん。 もう夕梨がこの世の終わりみたいな顔をしている。 とても痛々しくて、もう見てられない。見ているこっちが泣きそうだ。 「それに、兎上駆の野郎も、主人公スキルで、あっちこっちに無意識にフラグ立ててるだろ?」 失礼な。 「だからお前、ボヤボヤしてると、彼氏を誰か別の女に寝取られるぞ?」 ―――と、その瞬間。 何かが俺の頬を掠めた。 「……え?」 なんだか嫌な予感がして、そっと頬に手を触れてみると……。 ドロリ。 生暖かい感触と共に、俺の手が真っ赤に染まる。 「…………」 ダラダラと滝のように冷や汗を流しながら後を振り返ってみると……まるでダーツのように、部屋の壁に投擲ナイフが深々と突き刺さっていた。 …………うふふ。 「ぴぎゃああああああぁぁぁ!!」 叫ぶ。叫ぶ。 恐怖のあまり叫ぶ俺。 なんだコレぇ! 掠っただけだから良かったけど、一歩間違えれば死んでたぞ、俺ぇ! 「……駆」 ふいに名前を呼ばれて、振り返る。 そこにいたのは、満面の笑みを浮かべ……鋭いナイフを手に持った夕梨の姿だった。 「……ゆ、ゆゆ、夕梨……!?」 「駆は、浮気なんてしないよね? 他の人に寝取られたりなんかしないよね? 全部、吉岡さんがデタラメ言ってるだけだよね」 「……え、いや、それは勿論……」 「そうだよね。うぅん大丈夫。私は信じてるよ。というか、最初から疑ってなんかいないよ。 だって、私は駆のこと大好きだもん」 「すごい嬉しい台詞だけど、少なくともナイフを持ちながら言うことではないよね?」 説明しよう。 暴走番外の世界では、夕梨は何かスイッチが入ると、ヤンデレ化してしまうのだ。 しかも、かなり危ないヤンデレ。俺の頬の傷を見れば、分かるだろう?
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