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「黒岡さあああああああああぁぁぁぁんんん!うわあああぁぁ!」
俺は、壁の外へと消えていった黒岡さんを、必死に呼ぶ。
だが、反応はない。
彼女が屍になってないことを祈るのみ。
そして、
「おい、クソモヤシ」
背後から、鬼の声が。
「あ、茜さん!あなた遂にやっちまいましたねぇ!黒岡さん状態とはいえ、生身の吉岡さんですよ!? 彼女をモノ言わぬ体にしてどうするつもりですか!」
「安心しろ、峰打ちだ」
「何が!?」
「つっても、問題ねぇよ。一命だけは取り留めるように加減したからな」
「そんな、一命以外は全て取りこぼすような言い方を!」
「しかしまぁ、してやられたぜ。吉岡の野郎……アタシの拳が直撃する寸前に、一歩後ろに下がりやがった。おかげで、茜ギャラクティカの威力は半減だ」
「半減した衝撃で、壁を突き破っていきましたけど!? あんたさては手加減する気、ゼロだったな!?」
「アタシの目の届かない所で成長してたんだな、アイツ……」
「今、彼女の成長はおろか、その他諸々に終止符を打ったのは、あなたですけどね!」
「それよりもクソモヤシ、」
と、ここで茜さんは恐ろしく威圧的な態度で俺を睨みつけてきた。
「な、なんですか?」
「テメェ、何も聞いてないよな?」
「はい?」
「テメェはさっき、何も聞いてねぇよな、って聞いてんだ」
「…………?」
さっき……というのは、吉岡さんの最期の言葉。彼女がこの世に残した、生きた証となる、茜さんへの一言だよな。
「あぁ、アレですか? 茜さんが、実は俺のことを云々という―――」
「我、求むるは天地を揺るがす覇者の一撃。拳に力を、右腕に気迫を、開く五指には魂を……」
詠唱を始めよったよ、この人。
よく見ると、茜さんの拳に淡い青色の光が集まりつつある。
ヤバイ。何か来る。
何かよく分からないけど、このままだと確実に、俺の命に終焉をもたらす何かが来る。
気がつけば俺は、穏やかな微笑みを茜さんに向けていた。
「すみません。何の話をしてましたっけ? 俺、ミジンコ野郎だから2分以上前の記憶が無いんですよ」
こうして俺は、吉岡さんの最期の頑張りを無かったことにした。
反省はしている。
だが後悔はしていない。
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