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一仕事をやり遂げたかのように得意げな顔をして、カウンターへと戻るレイチェル。
「あはっ。誰が引っかかるか楽しみだわ」
人通りはそれほど多くない。
策略も悪意も無いバレバレの罠を見つめながらレイチェルは、さながら魚が竿にかかるのを待つ釣り師のように、退屈な時を忘れて楽しそうに待っていた。
そこへ、一人の少女が店の前を横切ろうと勢いよく飛び出してきた。
「いけない、もうこんな時間! 木下おじちゃん、待ってくれてるかなあ……きゃっ!」
携帯電話の表示を見ながら直向きに走る少女は突然、バナナに足をとられて華麗にひっくり返った。
「フィッシュ!」
レイチェルは椅子が倒れるのも構わず、喜びのあまり勢いよく立ち上がる。
足を投げ出して派手にすっころんだ少女は、一瞬の出来事で何が起こったのかわからず、仰向けのまま呆然としていた。
「あはっ。大丈夫?」
レイチェルは含み笑いを零しながら少女の元へ駆け寄ると、顔を覗き込んだ。
まったく悪びれた様子は無い。
「あ、はい。大丈夫です……って、ああっ!」
レイチェルの声で現実へと帰還したのも束の間、少女は突然、悲鳴のような声を上げた。
訝しげに少女の顔を見る。
その視線は、レイチェルの足元へと向いていた。
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