苦渋狼路編 出会い

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苦渋狼路編 出会い

 今日は晴天、空気も澄んでいる。 絶好の散歩日和なのだろうが…。  「…」  家を出た瞬間から漂う八朔の匂いが鼻をつく…晴れているからこその現象…嫌になる。 雨も嫌いだが、こうなると晴れも嫌いになりそうだ。  「…色々考えても仕方無い…か」  八朔が此の地の名物であり、此の地の生活資源である以上はどうしようも無い事なのだから…。  「さっさと行こう…」  誰に言うでも無くそう呟き、町営住宅の階段を降りる。 そして一階から二階へ繋がる途中の踊り場に足を掛けた時だった。  「ふぇ…? ぅわぁぁっ!!!」  突然上から悲鳴が聞こえた。 ふと見上げると…少年が降って来た。  「…!?」  多分慌てて階段を降りようとしてふみはずしたんだろう。 この状況で避ける事はまず不可能だ、もう間に合わない…それに少年が危険に晒される。 となると残るは…。  「ぁ…あれ…?」  俺の右腕の中で少年は事態の把握が出来ずに戸惑っていたが…詰まりはもう一つの選択「受け止める」…突っ込んで来た少年を右腕で掴んで止めたのだ。  「あ…あの…ごめんなさい、ありがとうごさいます」  「別に構わない…だが、どんなに慌てていても足元には気を付けろ」  「あ、はいっ」  注意を促すと、少年は素直に返事をして、一言「ごめんなさい」ともう一度言ってから去って行った。  「朝から慌ただし――…」  一息吐き、思った事を口にしようとしたが、それは叶わずに後方からの声に掻き消されてしまった。  「ヒロくん待ってよぉ~!!!!」  「…」  少女の声だ、さっきの少年…「ヒロ」と呼ばれていたか…? 彼の元に向かう為、俺の脇を走って行った。  《チリンチリン》  その時、少女から可愛らしい鈴の音が聞こえて来た。 見ると彼女の腕に鈴が付いていた。  「…ふん」  だが、別にそんな事は俺にとっては関係の無い事…鼻で笑ってまた歩みを進め始める…相変わらず漂う八朔の匂いに纏われながら。
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