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「おい謳司! 起きろ!」
「…」
「謳司!!」
「…」
別に寝ている訳じゃない、とっくに起きている…だが、一々喧しい親に嫌気が差していて、返事をしたり指図に従う事を拒みたくなる。 年に合わないが、反抗期に近いモノだ。
しかし、これ以上騒がれるのも厄介だ…仕方無く部屋の扉を開ける。
「ぅおっ! 突然開けるな、喫驚するじゃないか! 大体、起きていたなら返事くらいしろ!!」
「…別に、返事をする必要は無いだろ」
「お前なぁ――」
何かを言い返される前にさっさと父の脇を抜け、リビングに出る。
ただでさえ対して広い訳では無いこの空間に家族四人も揃うと更に圧迫感を感じる。
「兄さんは今日から学校だったよね?」
不意に弟の和弥[かずや]が話しかけて来た。
「あぁ」
俺は短く返事をする。
「へぇ~、どんな所だろう? 楽しみだね」
まるで自分の事の様に笑顔を浮かべる和弥。 こいつは俺とは正反対で、いつも明るく、愛想良く、前に居た所でも老若男女関係無く人気があった、それは此処でも例外では無いだろう。
「…別に」
俺は無口で、無愛想…一部では冷静とか物静かとか思われたようだが、大体の人からは卑屈だ根暗だと避けられていた、それもまた此処でも例外では無い事…。
「ふふふ、ほらほら兄さん急いで、初登校早々「遅刻しました~」なんて格好付かないよ」
そんな冷たい俺にも笑顔で接して来る弟が俺は嫌いでは無かった。
「…そうだな、そろそろ行く」
朝食のパンをコーヒーで流し込み、手提鞄を持ち玄関へ向かう。
「あ、謳司、お弁当っ」
「…要らない」
母に止められたが、それだけ告げて扉を開ける。
「兄さん頑張ってね。 帰って来たらどんな所だったか話聞かせて」
そう言って送ってくれた弟に背を向けたまま軽く手を上げた、普段からの「行って来る」という挨拶だ。
「…はぁ」
扉が閉まった後で短く嘆息してから学校に向かって歩き始めた…いや、或いは行き先は学校では無かったのかも知れない…これから俺を取り巻く運命に向かって――…。
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