一章

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「もう誰もいないでしょ。それよりも」と、姫華は言った。「その呼び方、止めない?」  もう帰ったかもしれないけれども、教室に一人いる可能性がある。でも、ま、いいか。ここからなら話も聞こえないだろうし。 「会長って呼べばいいのか?」  俺が尋ねると、目の前の美女は不満げに腕を組み、 「学校で話す機会があればそれでいいけど、あんた」ずいと俺に顔を近づけ、「家で会う時も、そう呼ぶじゃない。それがいやなのよ、あたしは」  じゃあなんて呼べばいいんだ。そう思いながら黙っていると、 「あんたも、昔は可愛かったのにね、姫華ちゃんってあたしのことを呼んでて」  俺は姫華の横をすり抜けて教室を目指して走り出した。昔のことは忘れたいのだ。  あんなにも無邪気でいられたころの俺はもういないのだ。姫華がどんなにすごい奴で、それで俺がどんなに彼女にふさわしくないかを知った、あの時から。  正直なところ、あいつにも忘れてほしいのだが、厄介なことにあいつは一度見たこと・聞いたことは基本的に忘れない。頭に強い衝撃でも与えれば、あるいは忘れるかもしれない。
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