一章

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 しかし、眼を何回こすっても、頭を小突いても、『幻覚』は『幻覚』のままだった。頬をつねってねじり上げても痛いから、夢でもない。なんてこったー。  ……もう、認めるしか、ない。彼女は、学校で、放課後、エロゲをしている。確かに、もう既定の下校時間は三十分は優に過ぎている。でもだからって……。なあ?  よほどエロゲにのめり込んでいるのか、廣畑(ひろはた)さんは俺が来たことに気づかないようだった。  言葉を忘れて突っ立ていると、やがて姫華が追いついた。なにかわめきながら、姫華は首を絞めてくる。  背中に二つの幸せな感触も同時にあったけど、俺は文句も言えずにいた。それだけ、衝撃的だったのだ(絞められて苦しいのもあったけど)。  と、姫華の言葉が耳に届いたのか、廣畑さんがばっとこちらを見た。 「……え」と、廣畑さん。  俺と同様に彼女はまず固まり、すぐにその瞳に絶望を滲(にじ)ませていった。こんなところを見られたら、誰だって死にたい気持ちになる。  こんなところでやらなきゃいいだけの話だけれども、確かに暇だったのだろう。  俺がこの教室を出たのはもう結構前だし、その時にはすでに俺と廣畑さんしか教室にいなかったのだから、気をつければ大丈夫だと考えたにちがいない。
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