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「廣畑(ひろはた)さ――」
靴を履き替える間に追いつかなければ、と声をあげると同時に横から、
「なに、あんた何したのよ? なんで、あの女は逃げて、あんたは追いかけてるの? あんたが泣かしたわけ?」
「――ぬわあっ!」
まさか追いかけてきているとは思わなかったどころか、すっかりさっきまで話していたことすら忘れていた姫華が、俺の隣にいたことに驚き、足を滑らせた。
足首がごきゅっと嫌な音を立て、バランスを崩した俺は踏ん張りも効かず、そのまますっころんだ。
なんなんだよもう! びっくりさせんなよばか!
と、心の中で幼馴染をありったけのボキャブラリーでひとしきりののしってから、俺は廣畑さんにはもう追いつけないな、と思った。
「なに転んでんのよ、バカじゃないの? まったくあいかわらずしかたないんだから」
頭上から聞きなれた声が降ってくる。いったいぜんたい誰のせいで転んだと思っているのだろう。
「ほら、大丈夫?」
「……大丈夫だよ」
差し出された手を借りず、俺は立ち上がる。寂しげな微笑を、彼女は浮かべてから、
「で、結局、どうしたの?」と、会長が尋ね、
「ちょっと」と、俺は答えにならない答えを返した。
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