一章

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「廣畑(ひろはた)さ――」  靴を履き替える間に追いつかなければ、と声をあげると同時に横から、 「なに、あんた何したのよ? なんで、あの女は逃げて、あんたは追いかけてるの? あんたが泣かしたわけ?」 「――ぬわあっ!」  まさか追いかけてきているとは思わなかったどころか、すっかりさっきまで話していたことすら忘れていた姫華が、俺の隣にいたことに驚き、足を滑らせた。  足首がごきゅっと嫌な音を立て、バランスを崩した俺は踏ん張りも効かず、そのまますっころんだ。  なんなんだよもう! びっくりさせんなよばか!  と、心の中で幼馴染をありったけのボキャブラリーでひとしきりののしってから、俺は廣畑さんにはもう追いつけないな、と思った。 「なに転んでんのよ、バカじゃないの? まったくあいかわらずしかたないんだから」  頭上から聞きなれた声が降ってくる。いったいぜんたい誰のせいで転んだと思っているのだろう。 「ほら、大丈夫?」 「……大丈夫だよ」  差し出された手を借りず、俺は立ち上がる。寂しげな微笑を、彼女は浮かべてから、 「で、結局、どうしたの?」と、会長が尋ね、 「ちょっと」と、俺は答えにならない答えを返した。
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