一章

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 我ながら冴えてるなと思う。 「はい」と、返事をし、勧められた席に腰を下ろす。「お願いします」  軍曹はうむ、とうなずき、 「本当はもっと他愛ない話をしたいのだが、時間がない、さっそく本題にはいる」  そりゃ好都合だ。軍曹と世間話などお断りだ。さっさと本題に入ってくれて結構。  逆に喜びたいくらいだ。 「で、だ」と軍曹。「おまえは進学希望か、それとも就職か?」 「進学です。大学でやりたいことがありますので」  後半は真っ赤な嘘だ。単にこう言えば、一応やる気はあるんだなとか、目標があるなら頑張れるだろうとか思わせることが出来るだろうからだ。軍曹なら特に、ね。  案の定軍曹は、ぐんにゃりと唇をひんまげ――本人は笑ったつもりなのだろう。あいにく、ブルドッグがくしゃみを我慢したようにしか見えないが――、 「そうか。目的があるのなら、頑張れるだろう。で、どこの大学が志望なんだ?」  テンプレの質問をされ、俺はあらかじめ用意しておいた大学の名を告げた。それはここの国公立大学であり、この学校が掲げている目標大学だ。  良い大学とも悪い大学とも言えない、特徴を言えと言われたら困る大学である。とどのつまり、平凡な大学という訳だ。
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