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次に狙われるのは自分。
そう考えるだけで、どこかへ逃げ出したくなるのだ。
所詮は夢の中での話。
しかし、頭にその映像は強く、はっきりと残されている。
また、汗をかいてきた。嫌な、妙にべたつく汗だ。
手を見ると、がたがたと震えている。
(落ち着け、ただの夢だろ)
何度も、必死に自分に語りかける。
チンッという、オーブンの音が聞こえた。
それにともない、竜弥の思考も事件から離れていく。
やがて汗は引き、震えもとまってきた。
かぎなれたコーヒーの匂いが、竜弥の心を落ち着かせた。
自分は今、現実にいるのだ。
「竜弥、顔色が悪いわよ。大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫」
朝食をテーブルに置く母に指摘され、竜弥は極力平静を装って答えた。
母のほうも、少し心配げに竜弥を見つめるが、やがて
「そう。無理はしないでね」
とだけ言い、竜弥の向かいの椅子に座った。
朝食はトースト一枚とコーヒー。朝はあまり食べない竜弥にとっては、これくらいがちょうどいいのだ。
なんら変わらぬ日常。結局、単なる夢オチだったようだ。
竜弥はなんとなくホッとしたような、同時に自分が馬鹿を見たような気分になった。
いや、夢オチだったというより、そうあってほしかったとでも言うべきか。
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