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しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。
竜弥もついに意を決し、目を堅くつぶり、恐る恐る足の先で、目の前の足場をつついてみた。
だが、意外にも足場はあった。拍子抜けするほど、当然のように。
どうやら、ここは平面のようである。
何だか臆病になっていた自分が馬鹿に思えてきて、竜弥はその場にへたりこんだ。
(あ、あはは……。なんか、自分が阿呆みたいだな)
それよりも脱出方法はないものか。
竜弥は再び辺りを何度も見渡すが、当然といえば当然だろう。その視線に、黒以外の色は見当たらなかった。
(本当に何なんだよ、これ?)
警戒心が薄れてくると、今度は苛立ちの色が強まってくる。
なぜ自分がこんな目にあわなければならないのか。
こんな空間に閉じ込めた目的は、一体何なのか。
わからない。わかるはずがない。何せ竜弥は、何一つ変わったことなくすごしていたのだから。唯一変わったことと言えるのは、父が仕事の関係で、年に数日しかいないことくらいだろうか。
『酒井竜弥さん、あなたに話があります』
どこからか声が聞こえた。発生源はわからない。竜弥は瞳孔を見開き、背筋をぴんと伸ばし、再び警戒するように辺りを見回す。当然ながら、誰もいない。だがそれが、かえって竜弥の警戒心を強める形となった。
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