第十三話 ここにいるよ…

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「……民千代さん。」 それまで黙っていた沖田が静かに口を開いた。 「何ですか。」 少し冷たい民千代の声に沖田は息を詰まらせる。 「…なぜ貴方はそこまで柏崎さんの事を信じるのですか? 彼の本名は柏崎岾啝です。 貴方も知っている通りこちらの敵です。 なぜ貴方はいつまでも楊介と呼ぶのですか?」 民千代はフッと殺気を消して寂しそうに微笑んだ。 「沖田先生。 あの日僕は楊介に誓ったんです。貴方を信じる…と。 それに直接彼から自己紹介はまだされておりません。 楊介しか名が分からないのです。」 「楊介は永倉先生をとても大事に思っています。 この傷口を手当てしたのも彼です。」 民千代はそっと新八の布団をかけ直す。 「それは民千代がやったんじゃなかったのか…」 藤堂は新八を見て辛そうな顔をした。 「彼は言いました。 いいんだ、特定の人が分かってくれればって… 大多数が信じてくれなくとも少人数が信じてくれればそれでいいって… 楊介の気持ちも汲んであげてください。 彼は過去に何か苦い経験をしているんだと思います。」 民千代の目には雫が溜まりふるふると揺れ動いていた。 「なのに…大切な人を守っただけなのに…」 「民千代…」 「なぜ彼は牢に容れられるのですかっ…」 ぽろっと雫がこぼれ落ちて民千代も新八の布団にうわあぁぁ!!と泣き伏せた。 「「「……………」」」 三人は何も言えなかった。 民千代は一人でこんなに考え込んでいた。 あのふざけた男の為に必死に頭を悩ませていたんだ…………
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