第二十話 最悪で最高な一日

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「ならばお聞きしますが芹沢先生。なぜ貴方は新見先生を信頼しておるのですか? ただ創立以来の同志だからという理由でしょうか?」 「ふむ、御主はまた随分なことを申すのう。儂はただ旧友の好で交換したまでよ。新見は儂を信頼しておるそう故。」 芹沢はからからと笑いながら顔を鉄扇でパタパタと扇ぐ 「…では芹沢先生はなんの意味も無く刀を替えた、と。」 「ふむ、そういう事になるのう。」 「…………。」 夜啝は居たたまれなくなり無言で立ち上がった 「…すみません。話の腰を折るようですが気分が悪いので近藤局長に報告をして本日は隊務を休ませていただきます。」 悠長に鉄扇をはためかせながら芹沢はおぉ、と一言呟いた 「何、儂も局長だぞ?近藤などに伝えずとも儂が了承いたそう。 そうだ、近藤一派では流行り病が蔓延しておるそうだの。 ふむ、儂らの手が必要ならいつでも言うがよいぞ。」 嫌味のようなその言葉に夜啝はカッと顔が熱くなるのを感じた 「っ…結構ですっ!!」 夜啝は壊れんばかりの力でピシャッ!と襖を締めて走り去った 「…実に清い心の持ち主よの。それ故に儚く、脆い。」 芹沢はふーっと深い溜息をついて再び布団に倒れ込んだ 「羨ましい限りじゃ…のう梅?」 カラ…と襖が開いて遊女のような艶やかな女が出てくる その憂いに満ちた瞳は芹沢を捉えて動かない 「新見はおらんよ。安心せい。…信用できんか?この儂が。」 梅はふるふると首を横に振って小走りで芹沢の横にちょこんと座った 梅は生まれつき、言葉を紡ぐことができない それ故に彼女は非障害者達から追放された 『痛みを理解できるのは同じ痛みを感じた者だけ』 彼女との出会いはそれを痛感せざるを得なくさせる程に衝撃的だった 「梅……梅?」 ふと梅を見れば目にいっぱいの涙を溜めて耐えていた 合間に聞こえる鼻を啜る音に梅が存在している事を教えられる 芹沢鴨という人間が一人ぼっちでは無いことを教えられる 「辛いよのう…すまなんだ。儂は…のう…梅…」 気付けば、芹沢自身もその細めた目を潤ませていた 梅は目頭を袖端で押さえながら小さく肩を揺らしている 「泣きたいのは儂よ…。この偽りの女狐が。」 梅は誰にも聞こえることのない声を上げて芹沢の胸に飛び込んだ 芹沢は、温かい一筋の涙を流して梅を優しく抱き締める 置き去りにされた二人の刻はいつになったら動き出しますか? .
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