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沖田は忙しなく動く夜啝の指に目を奪われていた
(柏崎は、何を考えている?)
沖田は果てしない考察を巡らすが、一向に答えは尾先すらも見せない
じきにパチン、と無機質な硬い音が部屋に響いた
「沖田さん。」
「は……っ!?」
一瞬だった
沖田の視界から夜啝は消え、かわりにひんやりとした不快な風が沖田の首筋を襲った
沖田の後ろで聞こえるその夜啝の笑いにぞくり、と異様な寒気が背筋に走るのを覚える
「…もしも楠木さんが間者で、私がその仲間なのだとしたら?
私なら丸腰の貴方を消すことなんか、赤子の手を捻るくらい簡単なんですよ。」
低い、冷めた声だった
「あ…い…以後気を付けます…。」
「全く、助勤ともあろう方がだらしのない。浪士組の恥ずる汚点です。」
「………。」
鋭く突き刺さるその言葉に沖田は青ざめた顔を下に向けた
夜啝は分りやすい溜め息を吐いて立ち上がり、縁側に立つ柱に繊細な硝子の風鈴を吊し上げた
「計画してたんですけどね…仕方無いです。貴方にだけ少しお見せしましょう。」
「え………。」
一言、沖田が呟いた
チ……リン………
同時に、風鈴が鳴いた
「真実を、現を、その胸に刻みなさい。
そして来世を貴方の夢として、次なる希望を待ちなさい。
神を、神だと信じなさい。
沖田総司藤原房良、永遠に眠ることのない幻夢を貴方に授けます。」
逆光を浴びる彼を伺いながら沖田はそっと顔をあげた
揺らぐ風鈴に映った小さな陽光は、七色に光り輝いて希望を絶やさずにいる
「私の現は…浪士組でございまして…。」
弱々しく沖田はそう呟いた
実際に、沖田の現は浪士組ただ一つに限った
絵に描いたような運命
幾度巡り返そうとも、呆れるほど真っ直ぐに壬生浪士組を選んでしまうのだろう
沖田総司はそれを人生と呼んだ
「夢を捨てなさい。真実を暴きなさい。」
厳しい言葉が沖田の現を打ち破る
真実は言葉の影に潜み、事巧みに彼の希望を引き裂いた
けれど、これが真実。これが現なのだ。
「幼心失わぬ温懐な一番組組頭に告げます。」
春の陽気が懐かしい
さあ、陰気な我らを吹き飛ばしてくれ
夢は、夢だからこそ
美しい
「百姓は文字を読めないと。
されど、心は読めるなり。
武士、天の邪鬼の孤立した悪心を本懐に埋め込みしことに存在意義ありけり。」
僅かに、春風が舞い戻る気がした。
されどそれも、夢に過ぎない。
――――……
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