第二十一話 間違うことなかれ

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「ふうっ…迷わずに着けましたね。」 「いや着けましたねって…。」 楠木が呆れた顔で溜め息をついた その距離、数字にして僅か襖三枚分だ 「では失礼します。」 夜啝は言い終わるか終わらないか程度で素早く襖を開いた その中にいたのは一人ではなく、数人の真っ赤な真っ赤な顔をした…… 「…ちょっと、真っ昼間から酒盛りは止して下さい。」 インフル患者の出来上がった皆様でした むわん、と漂うこれ以上無いアルコール臭は、流石の夜啝も端正な顔を歪めて蔑んだ 「はあ?んだよ!つか勝手に入ってくんじゃねえぞ裏切り者があ!!」 「ああ…うるさいです。言っておきますが病に酒は効きませんよ、原田さん。」 「出て行け。貴様と話すことは何もない。」 「あ、今話題ができましたね~斎藤さん。」 「失せろ。歳が仕事を与えた筈だろう?」 「言うなら自分でやってからにしてね。この置物局長さん。」 「う……。」 「そうですかそうですか。鵜が大好きですか。永倉さっ……!?」 その声の方向に振り返ったとき、夜啝はまさに顔面蒼白で震えだした 楠木と佐々木は首を傾げて夜啝の様子を後ろで眺めている 「…少し永倉さんお借りしてよろしいでしょうか。」 「おう。潰れた奴なんか邪魔だからとっとと持ってけ。」 手で追いやる近藤を尻目に夜啝は瞬時に新八を抱えて襖の奥に消えていった 「へっ、いっつも永倉さん永倉さんって…柏崎の野郎いつも新八が一番なのかよ。」 「は?柏崎さん?彼は江ノ本さんじゃ…」 ピタ…と一瞬笑い声が止まった だがじきにガハハハ!と馬鹿でかい笑い声が響き渡った 「ほらまた騙されてる奴がいる! いいか楠木?あいつの江ノ本楊介は偽名!本名は柏崎岾啝って言うんだ。女みてえな変な名前だよな。」 「えっ!?偽名…。」 楠木はちらりと佐々木を見る 案の定、楠木をじっと見つめていた佐々木はこくりと小さく頷いた 話は尚も続く 「いやいや名前だけじゃねえぜ近藤先生? あいつ線細いし中々綺麗な顔してるし、声も言うほど低くねえしな!」 原田が大声で叫ぶように話すと、だが、という小さな声が飛んできた 「剛力かつ乱暴にて髪も荒々しい一本締めだ。 あんな不恰好な女子は女子と認めたくない。」 言えてら、と再び大きな笑い声が沸く その人、斎藤はむすくれた顔でお猪口の酒を飲み干して次を注いだ
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