第二十一話 間違うことなかれ

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「それに、浪士組の斎藤一は女子何ぞに負けない。」 原田はへらへらと笑いながら分かってるよ、と斎藤の背中を叩いた 「…佐々木さん。」 楠木が神妙な顔で佐々木に振り返った 『新撰組に組頭に匹敵する実力を持つ女隊士がいる』 これを手柄といわずになんと言おう 楠木は期待のこもった瞳で佐々木を振り返ったが、なぜか佐々木は俯いたまま顔を上げない 「佐々木…さん…?」 少し不安気に楠木の顔を覗き込んだ しかし、佐々木はフイッと楠木から顔を反らして無言で立ち上がった 「楠木くん。私永倉先生の様子見てくるからちょっと待ってて。」 「え…」 不意に上げた瞳に映ってしまったその顔に、楠木はぐっと息を飲んだ 「先生方。今回は挨拶をしようと参じたのですが、少々流行り病の節で…また改めて参ります。」 「おう!誰か知らんがまたな!」 完全に酔っ払っている原田がばたばたと荒く手を振る 楠木を置いたままパタン…と襖が静かに閉じた 「吉田先生…?」 楠木はその男の何よりも大切にしている本名をぽつりと呟いた その声は誰にも気付かれることの無いまま酒盛りの騒ぎに溶けていった…… ――――…… 「馬鹿でしょ!下戸のくせになんでまた飲んでんの!?」 「だってえ…柳のおしゃけはこうきゅーなんらよ~?」 ベロンベロンに酔っ払った新八を布団に寝かせながら夜啝は深い溜め息をつく 「もう…いい?飲んでもいいけど、ある程度自己が保てる程度に! しかも病み上がりなんだから抑えなさい!」 「あい~…。」 新八は適当にへろへろと手を振る それ見て夜啝は微笑しながらゆっくりと立ち上がった この束の間にリラックスしたのか、一日の疲れはまるで嘘のように消え去っていた 「夜啝!!」 だが、酔っ払った声が再びその体にストレスの矢をぶっ刺す 夜啝は苦い顔で眉を潜めて振り返った 「はいはい何ー……ぶわっ!」 くるりと振り向けばいきなり一反木綿のような布団が全身に襲いかかってくる ゴンッ 「いった!頭打ったよ頭!!」 苛つきながらガスガスと新八の頭を拳骨で殴ると、新八はハハッと笑って夜啝の目を優しい眼差しで見つめた 「やっと触れた。」 「は……?」 新八は布団にくるまれた夜啝を強く抱き締めて、軽く寄りかかった
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