卯月 ―涙―

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「……ぃ……ろは」 「ん?」   声が聞き取れないほど小さくて、僕はクラインの方に耳を近づけた。 「小さい頃……いつもこうやって、ダイシと一緒の布団で寝てた……」 「そうだね。お布団、1つしかなかったもんね」   お母さんはいわゆる夜のお仕事をしていて朝まで帰ってこなかったから、心細かった僕たちは2人で1つの布団を使っていた。 冬は暖かかったけど夏は暑くて、なかなか寝付けなかったのを覚えてる。 「夏、暑かったなぁ。離れて寝れば良いのに、2人でひっついて……」   あ、クラインも同じこと思い出してたんだ。   何となく嬉しくなって、僕は大きく頷いてから言った。 「クラインから昔の話を始めるのって、初めてじゃない?」 「そうかな?」 「そうだよ!クラインはあんまり昔のこと覚えてないのかなぁって思って、ちょっと寂しかったんだよ!!」   どさくさに紛れて少し本音を言ってみる。 すると何となくぼんやりしていたクラインの声に、張りが戻ってきた。 「そんなこと無い。――じゃあこれ、覚えてるか?」   それから眠くなるまで、僕たちは交代で小さい頃の思い出を話し続けた。   窓の外が明るくなり始めた頃、2人とも黙りがちになって。   お互いの手をしっかり握ったまま、僕たちは1つの布団で向かい合って眠った。  
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