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体を優しく揺すぶられる感覚で、俺はハッと目を覚ます。
瞬間、眦から涙が伝い落ちるのを感じた。
「クライン、大丈夫?」
薄ぼんやりとした闇に目が慣れると、心配そうなダイシの顔が間近にあった。
「そっち、行くね?」
無言で頷くと、ダイシがのそのそと俺の布団に入ってきた。
ダイシの温かさを感じて、痛いほど脈打っていた胸が静まり始める。
俺にとって苦痛でしかなかったはずの人の体温と息遣いが、こんなに心地良いものになるなんて……。
4日前――俺が夜中に自分の部屋に行っていることがバレたあの夜から、ダイシは自分の手を俺の布団の中にまで伸ばして、俺の手を握り締めてから眠りにつく。
今まで隣で俺が泣いていたことに気付かなかったことが後ろめたいのか、それとも単純に俺が心配で仕方ないのか。
どっちかは分からないけど、ダイシは俺が泣きながら起きるのとほぼ同時に目を覚ますようになった。
そして子供をあやすような声で俺を宥め、優しい手つきで俺の頭を撫でる。
「何も怖いことなんて無いよ」
「クラインは悪くないよ」
ただただ繰り返される優しい言葉に、俺は安堵した。
「ありがとう……ダイシ」
「大分うなされてたから、起こした方がいいかと思って」
「ありがとう……」
俺が『ありがとう』を繰り返すと、ダイシが闇の中で照れたように笑った。
「えへへ。今日は僕が先に起きたね」
そう。
あの悪夢の瞬間を見なくてすんだのは、今夜が初めてだった。
本当はそのことについてもお礼が言いたいけど……俺が本当はどんな夢を見ているかなんて、言える訳がない。
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