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(ダイシは――本気で俺を守ろうとしてくれてるんだ……)
胸が苦しい。
息が詰まる。
けど決して悲しい訳じゃなくて。
嬉しくて。
それがまた辛くて。
――俺はまた涙を零していた。
それに気付いたダイシが、驚いて俺の頬に手を当てる。
「どうしたの!?まだ悲しいの?」
「違う……違うんだよ、ダイシ」
「じゃあどうしたの?クラインが泣いてると、僕も悲しいよ?」
なあ、母さん。
ダイシはこんなに優しい子なんだ。
愛しくて大切な、俺の弟なんだ。
もう――復讐なんて諦めてもいいだろう?
俺は胸の中で母さんに問いかける。
それでも頭をよぎるのは、母さんの恨みに満ちた醜悪な最期。
『梶永家の人間は、みんな地獄に堕ちろ……!』
ダイシの温かな指先が、そっと俺の目元に溜まった水滴を拭う。
「クライン……泣かないで。僕、クラインのためなら何でもするから」
容赦無い暗闇の中で、ダイシの手と声だけが優しかった。
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