Overdose Of Evil

2/13
前へ
/78ページ
次へ
ビッシリとひしめく建物の林立。 深夜にも拘わらず、夥しく通りを行き交う人々。 ここは若者の街…まるで眠る事を忘れた街… T都S区。 …その一角のビルの地下。 階段を一階分降りると、すぐさま… 【Thrash Sun】― スラッシュサン ― の看板が、入り口ドアの上に掲げられている。 最近評判の、若者が集まり踊り狂うクラブだ。 少々重い、冷たく鈍い銀色剥き出しのドアを引き開けると、途端に腹にまで響く圧倒的な重低音と、耳を劈(つんざ)く高音が綯(な)い交ぜになり、一気に体と心を呑み込む。 フロアーは、様々な格好をした若い男女で溢れ、踊っている。 人がいなければ広い空間なのだろうが… こう人が多くては広さを想像する事は、おおよそ出来ない。 陽炎が立ち込めそうな人熱(ひといき)れのフロアーの奥には、ガラス張りのDJブースが横たわり、中にはドレッドヘアーに顔が半分隠れるくらいのサングラスをかけたDJが、マイクに向かって大音量で客達の興奮を更に煽っている。 クラブを入ってすぐに、キャッシャーがあり、料金を払ってドリンクチケットを買う。 右側を見ると、バーカウンターがある。 壁伝いに人を掻き分け向かう。 カウンターの中ではリズムに合わせて踊りながら、Tシャツ姿のラフな格好でバーテンダーがシェイカーを振っている。 カウンターの止まり木に、レザーベストを直接肌に着たパンクヘアーの男が座っていた。 「ケンジ!お待たせ!」 近付いた女が大声で、男に声をかける。 「…おお!やっと来たかよ!?チヒロ!持ってきたか!?」 男…佐々ケンジが女…益岡チヒロを認め、尋ねた。 「買ったよ!」 チヒロは応えて笑った。 「チヒロちゃん、いらっしゃい!…何にする?」 バーテンダーが声をかける。 「リョウちゃんお疲れ!…なんでもいいよ、強いの!」 「…はいよ!」 バーテンダーのリョウは、すぐに透明な液体が入ったショットグラスを、チヒロの前に置いた。 「ありがとう…」 チヒロは酒を一気に空ける。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

138人が本棚に入れています
本棚に追加