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まるで牙のない吸血鬼のようだ。
「…なっ、なんだ?…お前?…」
今度は男が後退りしよう…とした。
…しかし、腰が何かに抑えられた。…後ろに退けない。
後ろをみると、女が両手でベルトを掴んでいた。…チヒロだった。
「どぉこ行くのよぉ?…ねぇ、おにぃさぁん?」
チヒロの瞳もケンジと同様に真っ赤だった。
男の顔が恐怖で引き攣(つ)った。
チヒロの体は細くて華奢(きゃしゃ)だ。なのに男が力いっぱい退こうとしても、ビクともしない。
「…へへへへぇ~お兄さん、こっち向きなよ?」
ケンジに言われ、男は向き直る。
「お兄さん、あんたツイてねぇな…ヘヘッ…ホンッとツイてねぇ…」
言い終わるや否や、男の腹にまるで鉄球か何かが、物凄い勢いでめり込む様な衝撃で突き上げた。
「…ぐっ…ふぅっおぉっ!」
ケンジの拳だった。
男の内臓全般が、一瞬で破裂した。
「…げっ…はぁっ~」
男の口から、血にまみれた内容物が吐き出された。
「…えっ?…うわっ!」
「…やだぁ!なぁに?きったなぁい!」
周りで踊っていた男女が気付いて、大声を上げながら遠巻きに三人を見た。
男は苦しさのあまり、前のめりに倒れようとするが、チヒロがベルトを引っ張りそれを許さない。
ケンジが男の髪を掴み上げる。
「具合悪いのかぁい?お兄さん?…飲み過ぎなぁんじゃねぇのぉ?…へへへへぇ…」
ケンジは右フックを男の頬に放った。
…グシャッと、嫌な音がする。
この時点で、男の頬骨が砕け、完全に意識が飛んだ…
同時にケンジの拳も粉砕したのだが、彼は何にも感じない様だ。
相変わらず、笑いがへばり付いている。
「痛くねぇんだけどよぉ、あんたがウザったくイチャモンつけて、俺を小突くから悪いんだぜぇ?」
今度は、左フックを放つ。
意識が飛んで、男の首は抵抗する力を失っていた。
…ゴキッ…
男の顔は薄く目を半開きのまま、チヒロの正面を向いた。
男は絶命した。
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