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「…キャッ!キャアアーーッ!」
「わ、うっわっ!」
様子を眺めていた者達が、異様な光景を見て悲鳴を上げた。
「…やぁだぁ…キモチわるぅい!こっちむかないでよぉ~!」
チヒロが右手をバンドから離し、男の顔を押し戻す。
「…お兄さ~ん、あんた悪いんだぜぇ…あんたわるい…あんたわるい…」
同じ言葉を繰り返す度に、ケンジは拳を男の顔に放つ…
何回も、何回も…
誰もが凄惨な光景に言葉を失った。
皆がこの地獄のカップルの所業に、止めるのも畏れて立ちすくんだ…。
何回殴っただろう…。
やがてケンジが手を止めた。
「…ヘヘッ…へへへへへへへへぇ~…」
ひとしきり笑った後…
「…俺はぁ~無敵だぁーーッ!
なんでも出来るーーッ!」
「あたしもぉーーぉおーーっ!」
常軌を逸したカップルは叫んだ後、のろのろと歩き出した。
支えられていた男は、操り人形の糸が切れた様に崩れ落ちた。
けたたましい音楽は、いつの間にか消えていた。
二人は出口に消えた。
残された若者達は男の体の周りを見つめていた。
血だらけだ。
耳が痛い程の静寂…。
我に帰った一人の男性が声を上げた。
「けっ、警察だ!…警察を呼べよ!誰か!」
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