山の中の天狗

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山の中の天狗

 暗い森の中にいると、小学生の頃におばあちゃんの家に行ったときに近く森で迷子になったのを思い出した。森の中は深く静かで、風が葉を揺らすたびに不気味な音が響き、感じる風は冷たく、それが余計に薄気味悪い。  そう、今自分は森の中を歩いているのだ。  なぜこのような場所にいるのか、自分でもいまひとつ理解できない。夢なら覚めればいいと思ったが、生まれてから一度も自分は夢を見たことが無い――かは分からないが、少なくとも夢を見たという記憶は無かった。  それに、曖昧だがここへ来る前のことは覚えている。学校へ帰る途中、突然眩暈がしたかと思えばこの場所に寝ていたのだ。  誰かに眠らされてここに捨てられたのだろうか。……いや、バイクに乗っていたからもし眠らされたのなら転倒してしまい、大騒ぎになるはずだ。では、道に迷ったのか。それも考えられない。では……。  頭の中で自問を繰り返すだけで、原因が何なのかさっぱり分からない。それに、歩いても歩いても同じような景色が続くだけで、どのくらい歩いたか。一時間、二時間……もしかしたら一日歩いていたかもしれない。そう思えば思うほど疲労を感じる。  僕は動かしていた足を止めて、大きな木にもたれて地面に座った。  冷たい風が流れているのに、手足が氷のように冷たいのにどこか暖かい。ああ、死ぬんだと、霞んだ意識の中で考えた。  そして意識が途切れる直前に聞こえたのは、誰かの足音だった。
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