回想1…《探険》

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この時代は、戦後20年頃。 まだ、チンチン電車が往来していて、自家用車を持っている人は少なかった。 うちの父親は、カッコつけ師なので、クラウンに乗り回していた。 近所の誰よりも、貧乏なくせに……。 近所と言えば、殆どが間借りの借家。 家族三人以上で、一間か二間に押し入れ一つ。 黒い土間に有る炊事、洗濯場、便所は共同。 流しはまだ、井戸水で、手でポンプを漕ぐ。 映画や、ドラマによく出てくる、まさしく井戸端会議の場所。 なにせ、母親達は色々な物を、貸したり借りたりしながら、早朝から食事の用意をするのだ。 「ネギ少し頂戴!」「よかよ。そんなら、豆腐を少し、分けて!」 それが毎朝の光景。 洗濯は、もっぱら、金属で出来たタライ(カネダライ)と洗濯板で固形石鹸を、ゴシゴシと。 何故か、うちの母親が、初めに洗濯機を買った。 それこそ、超貧乏なくせに……。
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