二章「血統」

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「お袋さんとは別のことで、何か悩みがあるようだが、俺じゃ相談相手にはなれんか?」 立花は迷った。 斉木を巻き込みたくはない。 だが、自分一人の力では、正直厳しい。 斉木に頼れば、恐らく助けてくれるだろう。 しかし、そのせいで斉木に危険が及ぶことは本意ではない。 オフィスのデスクの前で立ちすくみ、明らかな逡巡の素振りを見せる立花を見かねて、斉木から切り出した。 「どうも、ここでは言いづらい話のようだな。 なら、今晩空けておけ。 いつものバーででも、じっくり話を聞かせて貰おう。」 そう持ちかけられた立花は、 「はい。」 と、成り行きに任せるような、力ない返事を返すばかりであった。 夜。 立花と斉木が勤めるオフィスのそばに、二人が行きつけにしているバーがある。 照明を落として雰囲気を持たせた店内に、二人の姿があった。 「バーボンをダブルで。それと、こいつにドライマティーニを頼む。」 揚々と酒を注文する斉木。 一方、立花の顔は店内の照明よりも暗い。 この期に及んで、まだ話すべきかどうかを、迷っているようだ。 「お前がそんなに躊躇するとは、よほどのことらしいな。」 社内を一歩出ると、斉木は立花を「君」ではなく、「お前」と呼ぶ。 デスクでは君付けだった名前も、ここでは呼び捨てだ。 「話してしまえば、先輩に迷惑が掛かりますから。」 立花も社内では「斉木部長」だが、外では「斉木先輩」になる。 「迷惑かどうかは俺が決める。とにかく話してみろ。」
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