二章「血統」

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「俺だって、この仕事に着いて10年になります。人の顔色を窺うぐらいのこと、出来るはずです。」 飛び込みのセールスマンは、初対面の人を相手に商談をすることがほとんどである。 その為、相手の関心を買う術として、その心を読んだようなトークを要求される。 どう話題を振れば食いつき、どういうお世辞に喜ぶのか。 そんなことを四六時中考えているうちに、人の心理を探ることに精通してきた。 立花は、そう思っていたのだ。 「それは普通の客相手の話だろうが。 これは、中小企業の腑抜けた社長を騙くらかすのとは、ワケが違うんだぞ。」 斉木の口調が、徐々に熱を帯び始めた。 「そんなこと、やってみなくちゃわからないでしょう!」 立花のテンションもあがりだしたようだ。 もはや口論寸前である。 「やってみなくちゃわからない、だと!? フンッ。まるでガキの喧嘩だな。 いいか。「もしかしたら死ぬかもしれない」、どころじゃない。今のままなら、お前は確実に死ぬ。 そんなことでお前が死んじまって、親父さんが喜ぶ訳がないだろう。よく考えろよ。」 父を引き合いに出されては、立花は黙するしかない。 だが、それは素直に引き下がるという意味でもなかった。 「それでも、俺はやりますよ。先輩に何と言われようとね。」 立花の決意は固い。 だがそれは、斉木も承知のことだった。 「わかってる。何も止めようってんじゃないさ。 俺が言いたいのは、焦るなってことだ。 お前には、絶対的に経験が足りない。まず、カジノに慣れるんだ。復讐の話はそれからだ。いいな。」
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