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「俺だって、この仕事に着いて10年になります。人の顔色を窺うぐらいのこと、出来るはずです。」
飛び込みのセールスマンは、初対面の人を相手に商談をすることがほとんどである。
その為、相手の関心を買う術として、その心を読んだようなトークを要求される。
どう話題を振れば食いつき、どういうお世辞に喜ぶのか。
そんなことを四六時中考えているうちに、人の心理を探ることに精通してきた。
立花は、そう思っていたのだ。
「それは普通の客相手の話だろうが。
これは、中小企業の腑抜けた社長を騙くらかすのとは、ワケが違うんだぞ。」
斉木の口調が、徐々に熱を帯び始めた。
「そんなこと、やってみなくちゃわからないでしょう!」
立花のテンションもあがりだしたようだ。
もはや口論寸前である。
「やってみなくちゃわからない、だと!?
フンッ。まるでガキの喧嘩だな。
いいか。「もしかしたら死ぬかもしれない」、どころじゃない。今のままなら、お前は確実に死ぬ。
そんなことでお前が死んじまって、親父さんが喜ぶ訳がないだろう。よく考えろよ。」
父を引き合いに出されては、立花は黙するしかない。
だが、それは素直に引き下がるという意味でもなかった。
「それでも、俺はやりますよ。先輩に何と言われようとね。」
立花の決意は固い。
だがそれは、斉木も承知のことだった。
「わかってる。何も止めようってんじゃないさ。
俺が言いたいのは、焦るなってことだ。
お前には、絶対的に経験が足りない。まず、カジノに慣れるんだ。復讐の話はそれからだ。いいな。」
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