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オフィス近くのバーからこの場所にタクシーを乗り付けた時、二人は場所を間違えたとしか思えなかった。
裏カジノといえば、どこか華々しいイメージがあったのだが、二人の前に広がる光景は、殺風景な波止場だったのである。
「おい、おい。カジノってのは、なんだかずいぶんと寂しい所にあるんだな。」
「そう言えば、親父の死体が見つかったのも、港でした。」
この立花の一言が、緩みかけた二人の緊張感を引き締める。
一歩間違えば、自分達も海に浮かぶことになるかもしれない。
そういう場所に乗り込んだということを、再認識させた。
「まぁ、とにかく行ってみようじゃないか。」
それでも斉木は、明るい声で歩き出した。
しばらく、磯の香りをかき分けて、暗い港を歩いていく。
すると、ある倉庫の前に、場違いな服装に身を包む、二人組の男達を発見した。
黒のスーツ姿。
夜だというのにサングラスをかけている。
そんな、映画やドラマなどでお馴染みのスタイルだ。
「先輩。あれじゃないですか?」
「そうだとしたら嫌だし、違ったらもっと嫌だな。」
明らかにその筋の方だとわかる人に、こちらから声をかけるなど、どう考えても願い下げであるが、この状況下ではやむを得ない。
「俺、ちょっと聞いてきます。」
立花はそう言い残すと、足早に男達に近寄って行く。
「あいつ、こういう度胸は大したもんだな。」
残された斉木は、タバコに火をつけながら、成り行きを見守ることにしたようである。
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