二章「血統」

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「すみません。クラウン・フェイルズをご存知ありませんか?」 クラウン・フェイルズとは、向島に聞き出した裏カジノの名である。 直訳すれば、「負け組達の王冠」。 一獲千金を夢見る者達にとって、その店名は特別な響きを持つのだろうか。 だが、立花にとってはそんなことはどうでもよく、今は目の前の黒い男達の反応が気になる。 「お客様でしたか。 その分ですと、初めてのご来店のようですが、紹介状はお持ちですか?」 立花は罵声や怒号を覚悟していたのだが、男達は驚くほど丁寧な言葉使いで、そう訊いてきた。 「向島という人に教えてられて来たんですが、あいにく紹介状は持っていません。」 カジノは見つかったが、入るには紹介状が必要らしい。 いつの間にか後ろにいた斉木にも、事情は伝わったようだ。 「申し訳ありませんが、当店は会員制となっておりますので、初回のお客様は紹介状がありませんと、ご入店いただけないことになっております。 向島様のことは存じ上げておりますが、やはり紹介状をご持参いただくルールを曲げることは、出来かねます。」 セリフだけを聞けば高級リストランテさながらであるが、目の前にいるのは、いかつい黒服なのである。 ここは、素直に引き下がるのが賢明というものだ。 「どうしようもないな。場所もわかったことだし、今日は帰るとするか。」 「そうですね。残念ですが、それしかないでしょうね。」 斉木の言葉に、立花は諦めて、帰ろうとした。 そして、何気なく腕時計を見る。 時刻は10時過ぎ。 少し早いが、帰って休むとするか。 立花がそう思った時、不意に背後から声をかけられた。
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