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「おい、にいちゃん。その腕時計、どないしたんや。」
訛りのある耳慣れない声に、立花は振り返った。
先ほどは、一目でそれとわかる黒服。
そして今度は、一目でそれとわかる着流し姿の男が、立っていた。
「おい。聞こえへんのか?
その時計を、どないしたんやっちゅうとるんや。」
「これは、父の、形見、ですが?」
着流し男のあまりの迫力に、立花は思わず片言のような返事を返した。
「なんや。にいちゃん、立花はんの息子さんやったんか。」
なんと、この男は立花の父・浩太を知っているようである。
「父を、立花浩太をご存知なんですか?」
「知ってるもなにも、立花はんはわしの師匠のような方やった。
にいちゃんは、息子さんっちゅうことは、翔太君か?
わしは西野いうんや。よろしゅうな。」
西野と名乗る男は、立花より年上のようだが、今年で四十になる斉木よりは年下に見える。三十五、六だろうか。
その年で着流しとは、いささか不釣り合いだが、本人はいたく気に入っているようだ。
「どうやこの格好。渋いやろ。わしの勝負服や。
これも立花はんの教えでな。博打はなめられへんように、格好にも気を配れ、言うてな。
流石にこれはやり過ぎや、言うてはったけど。」
陽気に喋り続ける西野に、立花は唖然と見るばかりであったが、
「父のことを、教えてください。」
と、せがんだ。
「ん?まぁ、話は中でしようや。
なぁ、黒服のにいちゃん、この二人はわしの連れやよって、入ってもかまへんやろ?」
「もちろんです。西野様のお連れさまということであれば、問題はございません。
どうぞ、ようこそクラウン・フェイルズへ。」
こうして、立花達にとって初の裏カジノ「クラウン・フェイルズ」に舞台は移動することになるのであった。
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