二章「血統」

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「おい、にいちゃん。その腕時計、どないしたんや。」 訛りのある耳慣れない声に、立花は振り返った。 先ほどは、一目でそれとわかる黒服。 そして今度は、一目でそれとわかる着流し姿の男が、立っていた。 「おい。聞こえへんのか? その時計を、どないしたんやっちゅうとるんや。」 「これは、父の、形見、ですが?」 着流し男のあまりの迫力に、立花は思わず片言のような返事を返した。 「なんや。にいちゃん、立花はんの息子さんやったんか。」 なんと、この男は立花の父・浩太を知っているようである。 「父を、立花浩太をご存知なんですか?」 「知ってるもなにも、立花はんはわしの師匠のような方やった。 にいちゃんは、息子さんっちゅうことは、翔太君か? わしは西野いうんや。よろしゅうな。」 西野と名乗る男は、立花より年上のようだが、今年で四十になる斉木よりは年下に見える。三十五、六だろうか。 その年で着流しとは、いささか不釣り合いだが、本人はいたく気に入っているようだ。 「どうやこの格好。渋いやろ。わしの勝負服や。 これも立花はんの教えでな。博打はなめられへんように、格好にも気を配れ、言うてな。 流石にこれはやり過ぎや、言うてはったけど。」 陽気に喋り続ける西野に、立花は唖然と見るばかりであったが、 「父のことを、教えてください。」 と、せがんだ。 「ん?まぁ、話は中でしようや。 なぁ、黒服のにいちゃん、この二人はわしの連れやよって、入ってもかまへんやろ?」 「もちろんです。西野様のお連れさまということであれば、問題はございません。 どうぞ、ようこそクラウン・フェイルズへ。」 こうして、立花達にとって初の裏カジノ「クラウン・フェイルズ」に舞台は移動することになるのであった。
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