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なんの変哲もない倉庫の扉を開けると、そこは完全に別世界であった。
床を埋め尽くす真紅のカーペット。
壁や天井に無数に取り付けられた、瀟洒な造りのシャンデリア。
そして耳に心地よく流れ込んでくる、生演奏のジャズミュージック。
まさしく、カジノは薄汚い賭場などではなく、大人の社交場であるということが、全身の五感で実感できた。
「おい。シャンパン三つや。」
西野は、フロアを巡回するボーイを捕まえてそう言うと、入り口近くのソファーに陣取った。
立花と斉木も、初めて目にする光景に、やや呆気にとられながらも、西野の近くに座る。
「そんで?翔太君はええとして、そっちのナイスミドルは、どちらさん?」
西野が斉木を指して、そう問うた。
「こちらは、俺の会社の先輩で…」
「立花の同僚で、斉木と言います。」
立花が紹介しようとしたが、斉木は自分で簡潔な自己紹介をした。
「斉木はんやね。聞いてたかもしれんが、わしは西野や、よろしゅうな。
それにしても、斉木はん。そないに警戒したら、逆に怪しまれるよ。
翔太君みたいに、どーんっと、構えとったらええねん。」
西野は、立花の紹介を制して、斉木が自ら名乗ったことを、言っているらしかった。
斉木としては、立花が余計なことを言わないように、という配慮だったのだが、それが逆効果を与えたようだ。
やはり、この世界は一筋縄ではいかない。
斉木も立花も、西野の何気ない言葉に、そう思い直したのだった。
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