三章「潜入」

9/16

11032人が本棚に入れています
本棚に追加
/382ページ
「丁半」とは、日本に古くから伝わるサイコロを使った伝統的な遊びである。 ツボ振りと呼ばれる者が、二つのサイコロを容器に入れて振り、それを他の客が出目を予想して賭ける、というものだ。 このとき、予想するのは二つの賽の目の合計が奇数となるか、偶数となるか、である。 ちなみに偶数の場合は「丁」、奇数の場合は「半」と呼ばれるので、この遊びを「丁半」という。 「では、どなたからでも構いませんので、こちらの席へどうぞ。」 上田が目の前の空いている席を手で示すと、 「よっしゃ。丁半やったら、わしにまかせとき。」 と、西野が威勢の良い声を上げた。 もともと勢いで立ち上がっていた西野は、そのままプレイ席に座る。 「ほな行くで。翔太君のためにも、わしがデスギャンブルの情報をバッチし聞き出したるさかいな。」 そう意気込む西野の言葉を聞いて、立花は不思議な気持ちになった。 西野とは今日会ったばかりの間柄である。 話の流れでこういうことになってはいるが、そもそも西野にはデスギャンブルの情報など必要無いであろう。 それでも西野は気合い十分で、いの一番に勝負に加わってくれた。 立花と話す態度からも、西野の温かみが伝わってくるし、何より威勢の良い西野の姿勢は、立花を元気づけてくれる。 出会って数十分だというのに、立花は西野に対して感謝と友愛の情を、抱くようになっていた。 これこそが西野の強みなのだろう。 奔放に振る舞っているようで、どこか人を惹きつける力を持っている。 だからこそ、立花の父・浩太も西野に気を許し、西野は師弟関係と言っているが、おそらく年の離れた友人付き合いをしていたに違いない。 立花は、このキップの良い着流しの男に出会えたのは、亡き父の導きのような気がしていた。
/382ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11032人が本棚に入れています
本棚に追加