三章「潜入」

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「なるほど。立花様は何か考えがおありのようですね。よろしいでしょう。その条件、お受けいたします。」 こうして、やや変則的ではあるが、追加の三本目、立花VS上田の勝負が始まった。 「入ります。」 カラカラッ。 カコッ。 前二回同様の手順で、プレイマットに黒いプラスチックカップが伏せられた。 その間立花も上田も無言。 西野は、勝負の行方をハラハラと見つめている。 しかし、斉木には立花の策が読めてきていた。 (上田はツボ振りに指示を出してはいないが、この状況で上田を勝たせるなら、誰が考えても「丁」を出すだろう。 そして、上田は出目が揃ったこのタイミングに、必ず変更の確認をする。西野君のときがそうだった。まず、間違いない。 立花はそれを利用する気だな。) 長年カジノのディラーを勤めていた上田は、その習慣から賭が成立した際に必ず最終確認を行う。 今回は特殊なケースだが、習慣というものはそう簡単に取り外せはしない。 「出目が決まりました。もう一度伺います。賭けは「半」でよろしいのですね。」 やはり斉木の読み通り、上田は立花に確認した。 賽の目はもう誰にも変えられない。 そして、開けるまでもなく出目は「丁」に決まっている。 しかし、上田が確認したことによって、まだ立花に「丁半」の選択権が残っていることになった。 この状況に持ち込んだ、立花の勝利と言えるだろう。 (さすがに、言うだけのことはある。) ここで「変更する」と立花が一言言えば、勝負は決するのだ。 斉木は立花のしたたかさに舌を巻きながら、安心した様子でタバコに火をつけようとしていた。 だが、 「変更はありません。俺は「半」でいいですよ、上田さん。」 斉木はタバコを取り落としてしまった。
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