狂気の世界

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「そろそろ出かける。今日は戻らん」 コーヒーのカップを置いて父が立ち上がった。 「はい。お気をつけて」 「気を付けて」 「あぁ、時に影人」 「はい?」 「今日のコーヒーはおいしかった。何かいいことでもあったみたいだな」 「そうですか?走ってきて気分がよかったので」 「そうか」 父はそれ以上何も言わずに家から出て行った。 「父さんがそんなことに気づくなんて意外だね」 明人が自嘲気味に呟いた言葉に俺は苦笑いした。 俺達の将来にしか気を留めていない父が、そんな細かいことに気づいたのが驚きだ。 「よほど現れてたんだね。兄さんが人を傷つけたことに対する喜びが」 「そうみたいですね」 カップを片付けながら俺は微笑む さっきまでの光景が蘇る 背中にナイフを刺した時の感触 恐怖で歪む顔 耳元で響く悲鳴 「来週が楽しみですよ」 「…勉強してくる」 明人はカップをキッチンへと置き、部屋を出ていった。
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