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「では世話になったな。ありがとう」
「うん、それとオマケだ。これで目立つ髪を隠せるだろうよ」
行商人はそう言って、ウィリアムに黒いローブを渡した。
「今、町や村では兵隊達が誰かを探し回っているみたいだからね。目立つことはしないよう、気をつけなよ」
行商人はそう忠告すると、重そうな鞄を背負い東へと歩いて行った。
ウィリアムは行商人の姿が小さくなるまで見つめ、見えなくなると貰ったローブを羽織り、フードを頭に被せると再び近くにあるとされる町へ向かった。
あれから数十分歩いたところで、ようやくウィリアムは町へと辿り着いた。
町の入り口の看板には【アメストリア王国 西の果ての町 クイール】と書かれていた。
このクイールという町は隣国のランスとの国境があることから、人々の往来が頻繁にあり、宿場町として栄えていた。
「なるほど。中々大きな町だな」
ウィリアムは町の雰囲気を確かめるように、辺りを見渡す。
宿場町とあってか、旅人や行商人など多くの人々が町を行き交っていた。
「まずは腹ごしらえだな」
とにかく何かを食べなければと、ウィリアムは早速近くにあった酒場に入って行った。
酒場の中は人相の悪い男や旅人達が酒を酌み交わしており、活気づいていた。
当然、酒場なんて初めてなウィリアムは戸惑いながらも、近くのカウンター席に腰掛ける。
「いらっしゃい。何にする?」
ウィリアムが椅子に座ったところで、この酒場の主人と思われる女性が接客してきた。
「何か食べる物をくれないか?」
ウィリアムがそう言うと、女性は目を丸くして驚き、次に大きな声で笑い始めた。
「酒場で食べ物を頼むなんて、珍しいこともあったもんだね! 定食屋なら向かいあるのにさ!」
突然笑われたウィリアムは何が何だか理解できず、呆然としながら女性を見つめている。
「ま、せっかくウチに来てくれたんだから、何か出してあげるわ! サンドイッチでいいかしら?」
その問い掛けにウィリアムは頷く。
「オッケー! 少し待ってて!」
女性はニコリと微笑むと、店の奥に消えて行った。
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