序章

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これが庶民の交流場か… ウィリアムは酒場を隅々と観察する。 良い環境とは言えないが、少なくとも人々の顔には笑顔が溢れている。 城にいた頃のウィリアムには庶民の生活なんて味わうことが出来なかっただろう。 人が大勢いる環境が、ウィリアムを物思いに更けさせる。 今頃、城はどうなっているのだろうか? これから自分はどうなるのだろうか? ついこの前までは自分の未来が容易に想像できたが、今では明日の自分でさえ想像できない。 楽しげな人々の表情とは対照的に、ウィリアムは一人顔を曇らせていた。 「はい。出来たよ」 ウィリアムの思考を遮るように、主人の女性がサンドイッチを目の前に置いた。 サンドイッチの具材はトマトやレタス、ハムに卵と言った感じだ。 「すまないな。礼を言う」 そう言うと、ウィリアムはサンドイッチに手を付け始めた。 よほど空腹だったのか、サンドイッチはあっという間にウィリアムの腹へと消えた。 そんなウィリアムを女性主人はニコニコしたがら見つめていた。 「良い食べっぷりねぇ。そんなにお腹が空いてたのかしら?」 「昨日の昼食から何も食べていなかったんだ」 「それはそれは。…ところでお兄さん、旅人か何かかしら?」 女性主人はローブのフードで顔を隠しているウィリアムの顔を覗き込みながら尋ねる。 ウィリアムはそんな視線から逃げるように、顔を背けた。 「ま、まぁそのようなものだ」 「ふぅん。まぁ良いけどね…」 ウィリアムはナフキンで口を綺麗に拭うと、席から立つ。 行く宛ては無いが、アメストリア国内に留まっていては危険だ。 国境を越えれば、追っ手の心配も無くなるだろう。 「もう行くの?」 「あぁ。先を急ぐのでな」 ウィリアムが女性主人と話していると、何者かが、乱暴に扉を開けて入ってきた。 「我々はアメストリア王国軍の者である。現在我々は逃走中の反逆者、ウィリアム アメストリアを捜索中である」 入って来たのはこの地域の地主のような者と、複数の兵達だった。
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